本「最新刊」中野翠★★★★

11年ほど前の文庫で当然題材は当時のもの。だが、色あせていない。
たまに垣間見せる矜持のようなものがいい。
例えば、
『私は一人暮らしを始めたときから(29歳と11ヶ月という、いかにも的なタイミングで一人暮らしを始めた)、自分の老後にかんして、ある一つのイメージを暖めてきた。それは「大塚のアパートで孤老の死」というイメージだ。』
う〓ん、男らしい!

『私はウカツにも中年になってから初めて気がついたのだが、世間の多くの人たちは、まず「老後から考えおこして、そこから現在や近い将来を逆算して生き方のデザインをしているみたいなのだった。(金銭的に)豊かで平穏無事な老後を手に入れるためにはどうしたらいいか、そうやって段階的に人生のステップ踏みしめているようなのだった。
ようするに保険の発想で生きている。』
これには少々異論あり。
”世間の多くの人たち”がそうなのではなく、高齢化社会ではそう見えるということではないのだろうか。つまり、人は「予約」という人間社会にしかない便利なシステムを手に入れたのと引き換えにの”今だけを生きる”なんて都合の良いことはできなくなったわけだ。将来は見えないが過去なら見える。人は過去に自分のしてきた予約が正しかったのかだけでしか現在を評価できない。そして、今の社会(10年前も)にはどこをみても老人ばかり。そこに将来の自分をみてしまうのは無理もないことだろう。つまり、いかに適切な予約(保険)をすることに執着することになる。まあ、現代社会で予約無しで生きることはできないし、程度問題ということかな。